グローバル・コミュニケーションの重要性

神戸学院大学 経営学部 准教授
中西のりこ氏

発音練習と異文化間コミュニケーションの共通点

 大学で英語を教えていて、「発音練習のコツ」を学生さんから尋ねられると、「まずはよく聞くこと」と答えるようにしています。「何を聞くべきなのか」という対象としては、

  1. お手本の音声をよく聞く
  2. 自分の音声をよく聞く
  3. 教室の仲間の音声をよく聞く

の3つが大切ではないかと私は考えています。つまり、1.「こんな話し方ができるようになりたい」というお手本を決めて、聞く。2. 自分の声を録音して聞く。3. 英語発音を練習中の仲間の声を聞く。というわけです。この3つを聞いているうちに、「目標とする自分の音声」と「現状の自分の音声」ではどこにギャップがあるのかを知ることができるだけでなく、自分と同じ日本語を母語としながら同じような目標に向かっている仲間が、どのような失敗をしているか、又は、どのような点でうまくいっているか、を客観的に知ることができます。

 最近になって、上のような「コツ」は発音練習に限ったことではなく、「異文化間コミュニケーションのコツ」でもあるのでは、と気づきました。つまり、

  1. コミュニケーションの相手をよく知る
  2. 自分自身をよく知る
  3. 自分と同じように異文化体験をしている仲間の様子をよく知る

という3つのことを心がければ、自分とは違った考えを持つ人に出会ってうろたえたり、自分を見失ってしまったり、孤独感に襲われたりすることなく、真の国際人としての振る舞いができるのではないかと考えられます。

真の国際人とは

では、上の3つの要素がなぜ真の国際人となるコツにつながるのか、ひとつずつ確認していきましょう。

1. コミュニケーションの相手をよく知る

 このサイトをご覧のみなさんはさすがにこのようなことはないと思いますが、例えば「ガイジン=(イコール)アメリカ人=(イコール)フレンドリー」というような錯覚をして、日本語を母語としない人との会話となるとやけに馴れ馴れしく(だらしなく)振る舞う人がたまに見られます。しかし「日本人以外は全員アメリカ人で、アメリカ人は全員フレンドリーである」という無意識の思い込みはとても滑稽ですし、仮にコミュニケーションの相手が「フレンドリーなアメリカ人」であったとしても、自分自身もそのマネをしなければならない、というのはおかしな思い込みですよね。

 これは、英語の発音練習のときに、「英語は巻き舌で発音する」と無意識に思い込んでいるせいか、単語の色々な場所に “r”の音が入ってしまうというような「過剰一般化」という現象によく似ています。

 このようなことにならないためには、自分自身がどのような国際的場面で活躍をしているのかを想像して、コミュニケーションの相手がどんな人なのか、知っておくことが重要です。世界各国の人々が集まるような場面でのコミュニケーション力を必要とする人、日本国内にいながら特定の地域の人とのコミュニケーションが必要となる人、日本の文化があまり知られていない地域へ単身乗り込んでいかなければならない人、など、想定される異文化間コミュニケーションの場面は人によって様々です。すでに国際的なビジネスシーンで活躍している人も、これから羽ばたく予定の人も、まずは、自分はどのような人と、どのような場面でコミュニケーションを取る必要があるのかを思い描いてみてください。

2. 自分自身をよく知る

 数週間や数カ月という短い期間外国で過ごした人の中には、自分が元々誰だったのかを忘れてその国の人になってしまったような気分で帰ってくる人が見られます。特に観光や留学などで「お客様」として迎え入れられた人に起こりやすい現象のようです。ミス・コミュニケーションが起こっても、大事なお客様ですから許してもらっているうちに、その文化が自分にとって過ごしやすい、優れた文化のように錯覚してしまうのかもしれません。  また、リスガード (Lysgaard)という研究者が1955年に提起した「異文化適応の段階」という理論によると、人は異文化に接した直後には「初期ショック」を受けますが、何とかしてその文化に適応しようとする「ハネムーン期」、自分が置かれた環境に対するストレスを抱える「移行期ショック」を経て異文化適応の安定期を迎える、とされています。これらの段階のうち「ハネムーン期」の真っ最中に帰国すると、自分の個性を育んできた文化よりも、滞在先の文化の方が優れていると思い込んでしまうとも考えられます。

 「郷に入っては郷に従え」と言いますが、自分がこれまでに培ってきたアイデンティティを壊さなければならない、ということではありません。真の国際人とは、自分を殺して人のモノマネをする人ではなく、文化の違いが原因で何らかのミス・コミュニケーションが生じた時に、「私が慣れ親しんできた文化ではこうすることが当然と見なされていたのであって、決して悪気があってしたことではない」ということを誠実に伝えた上で、折り合いをつけられる人です。違いは違いとして認め、自分の立ち位置を自覚していることが重要ですが、「どちらが優れている」というものでは決してない、ということを忘れないでいてください。

3. 自分と同じように異文化体験をしている仲間の様子をよく知る

 海外旅行先で、日本人ツアー客の集団に出くわしてイヤな気分になったことはありませんか?「観光地に行ったら日本人だらけでガッカリした」「留学するなら日本人がいないところに行きたい」という声がよく聞かれるのはなぜでしょう。非日常的な外国情緒を味わいたい、日本語が通じない場所に自分を投げ込んで鍛えたい、というような理由で海外に出かけているのに、普段から見慣れた顔つきや行動パターンに遭遇してしまって残念だ、という理由がもちろん考えられますが、はたして、それだけでしょうか?

 以前、日本経済が絶好調だった時代には、カメラをぶら下げて似たようなブランド服を着た日本人観光客のマナーの悪さがよくやり玉にあげられました。このような「日本バッシング」は外国からだけのものではなく、日本人同士の身内バッシングの声の方も多く聞かれたものです。人は、自分とよく似た人の失敗については特に敏感になるようです。「愛想笑いをする」「音をたてて麺類をすする」というようなことは必ずしも悪いことではない上に、知らず知らずのうちに自分自身もしているかもしれないのに、「だから日本人は…」というように日本人が日本人を馬鹿にするような風潮がありました。

 このような、「自分と似た人の言動に敏感になる」ということをうまく利用すると、自分自身の言動を冷静に振り返るきっかけとなるでしょう。上に「2. 自分自身をよく知る」と書きましたが、自分自身のことはなかなか冷静に客観的に捉えることが難しいものです。特に文化はその人の奥深くに根付いているものですから、文化の違いが原因で起こるトラブルはその渦中にいる人には気づきにくいものです。自分と同じような境遇にある仲間が、異文化体験を通してどのような成功や失敗を重ねているのか、客観的に捉えてから、自分に重ね合わせて考えてみましょう。

EIL(English as an International Language)と異文化間コミュニケーションの共通点

 「社会言語学」という分野では近年「国際語としての英語 (EIL, English as an International Language)」という考え方が広まっています。英語はいわゆるネイティブ・スピーカーとのコミュニケーションだけのためのものではありません。国際的なコミュニケーションの場で使う場合には、ネイティブ・スピーカーが話す英語をマネすることが重要なのではなく、異なった言語背景を持つ人たちとコミュニケーションをとる上で意思疎通のために必要な要素を把握しておくことが重要です。

 このことは、英語という言語だけでなく、異文化間コミュニケーション全般に渡って言いえることではないでしょうか。単にどこかの国の人のモノマネをするのではなく、自分自身のアイデンティティを保ちながらも国際人としてのふるまいができるようになるには、①コミュニケーションの相手、②自分自身、③自分と似た境遇に置かれている人、の3種類の人たちのことをよく知ろうという態度が必要です。

中西のりこ氏 略歴

神戸学院大学 経営学部 准教授
職歴
神戸市外国語大学 国際関係学科 卒業(学士(国際関係学))。 神戸市外国語大学大学院 外国語学研究科 英語学専攻 修士課程 修了(修士(文学))。 神戸市外国語大学大学院 外国語学研究科 英語教育学専攻 修士課程 修了(修士(英語教育学))。 関西大学 外国語教育学研究科 外国語教育学専攻 博士課程 在籍中。

職歴
株式会社ECC法人事業部。 神戸市立葺合高校・関西国際大学・神戸市外国語大学・関西大学など非常勤講師(英語)。 現職: 神戸学院大学 経営学部(2015年からグローバル・コミュニケーション学部)准教授。

専門分野
英語教育・英語音声学

著書など
中西のりこ・中川右也(2012)『ジャズで学ぶ英語の発音』コスモピア.
玉井健・中西のりこ・『多聴多読マガジン』編集部(2012)『英語シャドーイング練習帳』コスモピア.
土屋知洋・中田達也・中西のりこ・仁科恭徳・中川右也・安河内哲也(監修)(2014)『TOEIC® TEST即効15日計画 はじめてでも500点突破‼』三修社.
2013年4月~連載記事「リスニング・シャドーイングのためのなま素材」『多聴多読マガジン』 コスモピア. (雑誌)